まずワインの原料となる美味しい葡萄を育てる自然条件として、昼間の太陽の日射量は絶対欠かせませんが、朝夕との寒暑差が大きいことが重要です。強い陽の光や高い温度は糖度の高い葡萄を育てる要素ですが、適度な酸味も兼備えた葡萄でないとエレガントなワインには仕上がらないからです。
それを満たす一つの要素が、この地がヴァレー(谷間・盆地)であること。
大きな俯瞰で眺めると、この辺り一帯はコーストラル山脈と呼ばれる地殻変動で太平洋側から内陸部へ押し寄せられた、山脈と谷間が幾重にも重なる地形のところで、その一つがナパヴァレーです。
ナパヴァレーは、東側と北側は大陸内陸部に面し、日中は燦々と輝く太陽で大地が熱せられて高温で空気が乾燥します。一方、西側はソノマ郡横をアラスカ寒流が流れる太平洋、南側にはサンフランシスコ湾の奥のサンパブロ湾があります。
これらの環境により、昼間は陽の光と高温で葡萄の実が良く熟し、夕刻から朝にかけては温度が急激に下がり、海から湿った冷気を引き込むことで、この温度差が朝夕に霧を発生します。
また、葡萄の成長期である春から夏場や収穫期にかけては日射量と高い温度は欠かせませんが、空気は乾燥している必要があります。葡萄の実にカビを発生させたり、土壌の余計な水分により水っぽい果実が育ち凝縮感のないワインへとつながります。この意味で、霧は葡萄樹に最小必要限度の水分を与える役目を果たすのです。
次に大地について述べましょう。元々この辺り一帯は大昔太平洋岸の海底が隆起してできた、貝殻やクジラの骨等を含む、ミネラル分豊富な石灰質の土壌です。さらに火山噴火が起こり、岩武石や火山灰が舞い降りた大地です。ナパヴァレーで一番高いセントヘレナ山はそのなごりの休火山で、この盆地には岩山があり、アルカリ性で石灰質の水はけの良い砂利質の土壌でできています。
この山岳部や水はけの良い土壌にはカベルネ・ソーヴィニヨン種他を育てるのに適しています。他方、このヴァレーの低地を北から南のサンパブロ湾へ流れるのがナパ川で、この周辺の土地は保湿のよい粘土質の土壌で、メルロー種他の葡萄に適しています。
これら幾多のこととなる環境と地域が複雑に混ざりあい、ナパヴァレーには様々なテロワール(気候・土壌他)が細かく複雑に入り込んでいる、世界的にも希な微気候(Microclimate)が存在する地域となっています。
これは様々な葡萄品種が育つことを意味し、葡萄にとってエデンの園と呼ばれるゆえんでもあります。